大判例

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東京高等裁判所 昭和62年(う)175号 判決

論旨は量刑不当の主張で,原判決は,本件傷害の成因や死亡との因果関係,被告人の供述する犯行状況,老化防止対策の正当性,当日の争いの態様,事件後の被告人の対応など,量刑に影響する諸事項を誤認しており,その結果被告人に対し刑の執行を猶予しなかつたのは不当である,というのである。

本件は,老齢の実父が老化によつて物忘れの進むのを防止しようとした被告人が,その方法として,かねてから「勉強」と称し,読み書きや計算の練習をさせたり,日常生活について事こまかな注意事項の遵守を命じたりしていたところ,熱心さのあまり遂に口論となり,ほとんど抵抗もできない実父に対し,多数回にわたり殴打する暴行を加え,その結果数日後に死亡させるに至つたいたましい事案である。

そこで所論の指摘する点を考慮しつつ,記録および当審における事実取調べの結果をあらためて検討してみたが,原判決の認定説示するところに誤りがあるとは認められず,前記のような本件の動機,犯行の態様,傷害の程度,死の結果の発生などを考えると,被告人の責任は甚だ重大であるといわなければならない。

関係証拠によれば,原判決も説示するように,被告人が,日ごろ年老いた両親を扶養することに自覚をもつて貯金もし,真剣に老化防止の対策を講じようとしていたこと,「勉強」と称する方法が老化防止のために効果的であると信じていたこと,本件は親を思う気持から出た家庭内の出来事で,被告人のあせりと一時の激情にかられた犯行であることなどは肯認できるのであるが,本件のきつかけは,つまるところ被告人が,人の老化は程度の差こそあれ避け得べくもないことに思いを至さず,自分の性格からくる隙のない理詰めのやり方で父親に接し,自己中心的で性急に過ぎる期待に親が応えてくれないとして抱いた不満を爆発させたところにある。そして暴行の激しさや,犯行後の被告人の対応の仕方なども,子の親に対する情愛のあらわれとしては尋常でなく,人間としての基本的な思いやりや,心のあたたかみに欠けるところがあつたものといわざるを得ない。また,被告人の公判廷における供述,態度をみても,一応反省の情を示してはいるが,いささか理が先に立つものであつて,実父を死に至らせたことについての悲しみや,自責の念をすなおに感じとることができない。被告人には前科がなく,所論指摘のような家庭の状況など酌むべき諸事情も存するが,これらを含め,原判決が量刑の理由として説示するところは相当というべきである。したがつて,本件は到底執行猶予の事案ではなく,刑期の点においても,原判決の量刑は不当に重いとはいえない。

論旨は理由がない。

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